カルト・ワインに酔いしれて



……飲めばあなたも、役者・桜木みなとに恋をする。



カルト・ワインに、乾杯。


ここのセリフ、2回目以降の観劇から「完敗」とも聞こえてきました。私の心の声です。

この作品が私にとって思い入れが強くなり過ぎて、言葉にまとめるのにとても時間がかかってしまいました。感想と言うには長すぎるのでもはやレポートです。でも構成も何もない随筆です。そんな都合で語尾も雑です。

ところがこの人、ネバセイで桜木沼にどぼんしたばかりなので、新規な上にほぼ桜木さんしか見ていません。供給過多でヒイヒイしていたため、台詞等もうろ覚えですので間違っている箇所もたくさんあると思います。いち最下級生桜木ファンの感想文であることご承知おきください……



①シエロ・アスールという男

②カンパニー「カルトワイン」

③飲めば飲むほど深まりつつ遠ざかる理解

④役者「桜木みなと」

⑤桜木の女全開なただのお気持ち長文


五項に分けてまとめてみました。要は感想文なので、結局同じ話出てきますたぶん。




___________




①シエロ・アスールという男




痩せた野良犬のようなささくれだった雰囲気の「少年」から、ひとたび触れたら抜け出せない甘く苦い魅力のヴェールを纏った「青年」へーー。


彼の根が善性なのは、もう私の中では確定事項。もちろん悪事はしているし、してきた、それでも根っからの性悪とは思えない……そんな男。


彼の祖国はホンジュラス、「世界で一番パラディソに近い国」。ネット調べですが、人口に対しての殺人事件の件数が世界一多いと知りその意味を噛み締めました。国民の半分以上が貧困層、犯罪や麻薬売買も横行している危険の多い国。

私だけの記憶が飛び過ぎてるわけでなければ劇中で明言はされていなかったはずですが、発言や状況からおそらく両親も兄弟もいないシエロ。フリオ一家の存在があったとはいえ、ただでさえ治安の悪い彼の世界で身寄りもなく、その地を牛耳っている勢力に属することで生き抜こうとする選択はやむを得ない……「マラスに入るとき覚悟を決めたんだ」「仕方のないことなんだって」と銃を構えて震えながら叫ぶシーンは毎回目が潤んでしまう。

何度目かの観劇時、謎の目線で「もしうちの子だったら、」と思ってしまって、あのシーンで(周囲で)わたしだけ泣いてしまった。あなたはどんな幼少期を過ごしたの、何を思って、何を考えて、何を知って、何を知らずに生きてきたの。そして天国にはこんなもどかしい哀しみを抱えてる母親たちがいるのかと思うと胸が締めつけられてしまう。世界中の子どもたちが笑っていられる世界を願ってやみません。「立ち回るのさ、ただ生きるため」この歌詞に、不法入国を決意するまでのシエロの全てが詰まってる気がした。



いい子ではあるんだ、悪さは出来るし、するけど。


チャポの鞄を盗むのも、ワインを盗むのも偽造して売り捌くのも、どう思ってるのかはさておき「出来る」。「悪いこと」をやってみたいと思っても、実行するかのハードルの高さ(育った環境の秩序管理の度合いや個々人の遵法意識に準拠?)は人それぞれ、文字通り物差しが違うわけで、それが育った場所の治安で上下するのは当然。

悪事・犯罪だということの認識はある、でもそれを「悪い」と思ってるのか?なんだ?ん?と、シエロのことを考えていたのに自分の善悪の概念の線引きについて迷走し始める始末。そもホンジュラスで育った彼の価値観のことを、旅行以外で日本から出たことのない私が語るのがナンセンスなのでは?と思いつつ……当たり前のことだけど、みんながみんな育ってきた背景は違いますもんね。人は皆違う世界で育ってきたことを忘れずにいたい。コミュニケーションのすり合わせによって、重なった部分を一緒に歩けてるだけ。言葉を尽くすことを大事にしよう。閑話休題


ひとまず、私が認識してる範囲の日本の法律で禁止されてることを「悪事」と仮定して話を進めたい。そして10人いれば8人がその行動を「是」と言いそうな行動を「善の行為」としたい。

悪事は前述のとおり。さて一方で、「殺人の命令には躊躇いの色が見えること」、「フリオ一家への家族的愛情」、「川で流された人を飛び込んで助けたこと」、「(人命に影響有りと判断してからは)フェスを荒らす悪漢を撃退」「※アマンダと知らずに変な男に絡まれた女性を助けたこと」、このあたりは善の行動にあたるのかなと。※については、私の中で「シエロ本人の行動説」と「カミロ・ブランコとしての演技説(紳士として、カミロならこうする、みたいな)」があるのでなんともですが。あとは、フリオとモニカを守ろうとするところや、モニカの健康を気にしてるところ……根はやっぱりだと思うんだよなぁ。


そんな彼が、偽造は犯罪と知っていてチャポの下でそのを振るうことを選んだ。劇中語られた理由は二つ、「自分の才能(ギフト)を試せる場所で己の価値を測りたいから」「このまま店に元マラスの自分がいることに懸念点があるから」。そして「ここまでのやりとりから、自分の偽造の腕はチャポからモニカの手術代を引き出せると確信したから」、「バカみたいな夢を見つけたいという気持ち」。……夢を持つことへの憧れ……?その日を生きるので精一杯だったことからの反動……希求もあったんだ(これを書いて気付きました)。


アメリカに着いてすぐのシーンの歌で出てきた、「お前の価値を決めるのは」「お前だけ」「俺だけ」……このやりとり。一幕で答えが出てたことに気づいた時ぞっとした。「神様がくれた、俺だけの才能で 証明するんだこの俺の価値を 試そう、さあ!」「欲しいだけの夢を与えてやるから 与えてくれ、俺の価値に見合う賞賛を」随所で求めてるのが"自分の価値の証明"……それも第三者的、誰かに認めてほしい……"承認欲求"……?自己肯定感が低いわけでもない?何かが満たされていない彼は、誰かに価値を見出されたがる……。ディエゴ一家から家族のように愛されつつも、それでは足りなかった何か。メキシカンフードフェスティバルでアマンダを助けた後、周囲から「勇敢な青年を讃えて!」と賞賛されたところでの笑顔。お調子者とは違うんだろうなと初見から思ってはいたけれど。二幕でフリオと再会した時、「こんなに生きてるって実感できる仕事、他にあるか!」って台詞……自分が生きてるって実感したいっていう気持ちもあるんだなって。

そして極め付けは二幕法廷のシーンでの歌、センチメンタルな旋律に切り替わってからの「誰かに与えられるものでも、誰かに認めさせるものでもなかったのに……」幕が下がって初めてそれに気がつくなんて。一幕でも二幕でも、オークションにFBIが入ってきて本名を呼ばれた瞬間ふと微笑んで目に光が映るところ。(フォロワーさんがおっしゃていた「目に光が差すタイミング自由自在」、ツイート見かけてすごくしっくりきて、観劇時により注目して見ることが出来ました。ありがとうございました!)最初は「肩の荷を下ろせた安心感」かと思ったけど、2回目からは「幕引きを自分で決めたことへのしてやったり、な微笑みなのか?」とも。刑務所での面会時に未来の話をして、フリオと笑って別れていく背中は、コルミージョのアジトに佇む背中よりもずっとずっと、青空のようにカラッと晴れて見えた。


TLで見かけた、シエロの「無私」についての感想……ごめんなさいどなたが書いていたかは忘れてしまったのですが、「川に飛び込めるのも、モニカの手術代のために自分を差し出せるのも、自分を大事にしていないから」とおっしゃってる方がいて。それを目にした時、なるほど!とすごく納得しました!この場をお借りしてお礼を。そして、それはそれとして、シエロは自分の価値を認めて欲しがっているーーこの矛盾!なんという人間味!!守りたいものがあるのに自分を投げ出せる、そのくせ生きていくためには何でもする気概で息をしながら、他者の賞賛によって価値を測ろうとしている。自分の価値を誰かに認めさせたがっている。相反するのに両立する感情、状況、なんて人間らしい!葛藤、逡巡、承認欲求、逃げ出せない状況下で増していく欲望、焼けつくような煌めきを湛える瞳が泣き出しそうだった紙吹雪の散る熱唱を私は忘れない。


シエロ・アスールという男の魅力。野望に燃え、恐れを捨て去り登り詰めていく豪胆さ、潮時と見定めるや否や、財産を巧妙に残す強かさと幼馴染を信じる決断力。子犬のような愛嬌と野犬のようなヒリつき、貴公子然としているのにどこか妖しい魅力を滲ませる微笑み……。そして、特別な人間のような才能と決断力と行動力を持つにも関わらず、言動から滲むありふれた人間味にこそ彼の魅力があるように思えてならない。最後まであなたのこと、半分もわからなかったけれど、見せてくれなかった部分すらも愛おしく思えてしまうくらいには、好きです。




___________




②カンパニー「カルトワイン」




舞台は生物、という言葉。一つの演目でこんなに多くの回会場に足を運んだもちろん通われてる方々に比べたら全然少ないですが、私の中では出来る限り行きましたのは初めてだったのですが、フィナーレでワインボトルが舞台上転がったりコルクがふっ飛んだりフリオがワインの値段の倍数のセリフを間違えたり……こんなにハプニングあんの!?とそわそわしながら見つめさせていただいた数々の場面。そのどれも、カンパニー全員一丸となって当然のように乗り越えていらっしゃったことに舌を巻きました。


特に私の中で、カンパニーとしてのカルトワイン組が焼きついたのが『ワイン錬金術』の場面!コルク吹っ飛びハプニングで、オペラ越しに桜木さんの足上げだけを見ていたその場面を初めて俯瞰(笑)転がったコルクを、シエロフリオを囲むポジションで位置にきた子がさらっと拾った瞬間、思わず私もガッツポーズ!それから、シエロがスクリーミングイーグルを探している時、鷲の陣形になって「天高く舞い上がれ鷲の背に飛び乗って」と歌う場面!(そら?かもしれない)可愛く足を伸ばしてワインセラーを漁るシエロとどちらを観るか毎回悩んでいました。ポートワインをアピールするみんなの笑顔〜〜!セリフがないのに表情だけであんなにお芝居してるのほんとに好き。あの人数でコーラスがちゃんと圧強めな宙組コーラスだったのがほんとたまげた。好きです。


もえこさん!!ごめんなさいこんなにカッコよくて歌うまでお芝居上手な方だったなんて存じ上げませんで……ネバセイではすっかりアギラールばかり見ており

宙組さん、基本的にみんなブリリアの音響に勝ってらしたけどもえこさんは一人勝ちしておいででした。足が長すぎて顔が小さすぎて二次元?ってなった……スタイルつよい……


春乃さくらちゃん演じるアマンダ!同じ女として、カッコいいなと思う女の人でした。どなたかもおっしゃっていたのですが、フリオから「あいつが偽装してるのは名前だけじゃない」と告げられたシーンで、「まさしく良く熟成されたブルゴーニュだったわ……」と偽物のワインに騙されたことへの自責が真っ先に出てくるところがピンポイントですが好きです。


いつみねさん!!「みすぼらしい青年だった」の言い方が回を増すごとに凄みが効いていて……!声を張っていないのにたしかに感じる、専科さんのお芝居の強さを感じました。カテコでおちゃめで可愛らしすぎてニヤニヤしてしまいました、不敬、ごめんなさい!!ワインの下見会が始まる時、ミラさんが客席に向けて話す場面、五峰さんがスポットライトに収まった瞬間に私がほんとに下見会の客の気持ちになって、客席の空気までも支配する立ち居振る舞い、ってこれのこと言うのか!と背筋が伸びました。


すっしぃさんのバイトなんて……宙組初観劇がネバセイだから当たり前なんですが……初めて見ましたよ……バイトしてても明らかにオーラがおしゃれで痺れました。オーナーが似合う似合う……アマンダと結婚間近なフリオへの接し方がすごくなんか、良き父として良き上司としてというか……うちの上司もすっしぃさんにならないかな……


まっぷーさんの演技の幅!?!?!?と温度差で風邪引きそうになった二幕。一幕であんなにドラマティックに舞台を去ったまっぷーさん、二幕では冒頭からなにやら陽気なご老人に。グランピィぃぃ!の表情よ。一幕、ベスティアで命尽きるシーン、娘と二人の息子に看取られて、「人生はやり直せる」と、あんなに弱っていたのに力強い言葉を遺していくディエゴに、涙が止まりませんでした。


ネバセイから気になってたけど、かりんさん好きだ〜〜!さち花ねえさん(月組)を好きだと思う瞬間に動くレーダーにビビッときた。稽古場情報の時からもう好きだな〜って思ってたけど、アナウンサーひと目見た時確信したし、初日映像で捌ける時にあんなにはしゃいでるの知ってさらに好きになった。好きです。


ルイマキセさんの男役を客席から初めて見まして。私あるある【初見すぐに留衣さんとわからない現象】というのがあるのですが、お役として馴染みすぎているからぱっと見わからなくて五秒後に「留衣さんだ!」となるんです。ラ・パッショナリア然り。2幕の昔話の場面、スーツを仕立てることに消極的なシエロを煽る場面の「覚悟を決めろ」に至るまでのセリフの高まりが鮮烈でした。


わんたさん!マイ初日はごめんなさいチャポの手下の時しかわからなかったんです……!ところが2回目以降「!?わんたさん」「!!?わんたさん」ととになく役数が多くしかもどのお役も印象的!そんなことある!?それぞれのお役ではシエロとの関わりは短めでも、希峰さんがこのカルトワインという作品において代わりのいない役者さんなんだなと観劇の度に感じておりました。


オークショニア……君のことを教えてほしい、私がここでオークショニアについて書くためには圧倒的に見てなさすぎた。次元の違う存在、だけどちゃんとオークション取り仕切ってたよね!?君はなんなんだ。考える材料が足りない……シエロばっか見てたからですごめんなさい。二幕前のアドリブを観に行く度にどんどん我が物にしていったのはよく覚えています。ナニーロさん、これから注目して見ていきたいです。


ミゲルを演じた真白くん!!ネバセイからの新規宙担ですが、ワインで完璧に覚えました。まずシエロとのカバン追いかけっこ!ボスのドーナツとコーヒーを律儀に持ち続け、時には灰皿も勤め、フリオをボッコボコに(DCでようやく全体を見て初めて知りましたが結構な勢いをつけて殴る蹴るなどしていてびっくり)……そして「ですぅ!!」のところは言わずもがな、車のアドリブシーンが本当に!!毎回楽しみにしていまいした!!偽造バレ後の電話のシーンでチャポの後ろに控えるところの表情の移り変わり!!この公演通して主演様の次に楽しみに観ていたのは真白さんです。これからの真白さんも楽しみにしています。


モニカ絶対いい女になってるよ。間違いない。ディエゴを撃てないシエロを、それでいいの、と宥める包容力に感服した。この人は悪人じゃないわ!と庇う場面も、芯に強さのある女の子なんだなあと……幸せになってほしいな。お金がないのに、手術代がどこからともなく降ってきたこと、モニカはどう感じてどんな話をフリオとしたんだろう。美星帆那さん、覚えました。



もっともっと魅力的な下級生さん方のこと書きたいのですが、お名前がわからないのでひとまずここまで……!次回公演からもっともっと宙組観劇が楽しくなる、そんな確信に満ち溢れています!!!カルト・ワインカンパニーに、乾杯。




___________




③見れば見るほどわからなくなる『カルト・ワイン』




栗田先生のお茶会って開催されませんかね……

無理に予定合わせてでも行くんですけど……


誤解を招く表現になっていたら申し訳ないのですが、宝塚で男女の恋愛が主軸でも結末でもないのが個人的にすごくツボで。フィナーレでアマンダがフリオのところに戻ってくるならそれはそれで嬉しいので全然いいんですが、ひとまず本編として。アマンダなりモニカなりとの関わりが最後に描かれたりするのかと思っていて。それが、最後がフリオとの仲直りの約束……男同士の友情を"粋に"描いて、出所後を想像させる爽快な後味のカルト・ワイン!!投獄エンドなのが分かりきっていたから、もっと切なく暗い終わり方になるのかなあとマイ初日まではそれだけを心配していたのに、素晴らしくプラスに裏切られまさしくお手上げ。もちろん切ないシーンもたくさんあるけど、終わりがこんなに心地よいから何度でも観たくなる!!「楽しい!」と「考えたくなる」が代わる代わる現れるこの作品。ずんさんに視線をロックオンしてしまう世界線の私にはフラットな感想と考察ができないことだけが悔やまれる。宝塚を知らずに過ごしたのにうっかりカルトワインを観劇した世界線の私を召喚したい。


中南米の貧しい(とされる)国で、死の観念が日本よりずっとずっと近い国で育ったシエロのこと。世界史じゃほとんど「今」に当たる世界の話。私が生まれてからの年のこと。私はまだまだ無知で、愚かだ。そう思わずにはいられない。自分よりも生きていくのが辛い環境にいた人のことを憐れむのではなくて、背景を知ること、知ろうとすることを心がけていきたいと思う。シエロの家族がいない理由は明言されていなかったけれど、もし環境に起因する死別だったなら。共感することは私には不可能だけど、理解しようとすることで何かわかるのかな。

祖国を逃げないと暴力に屈して生きなければならない人々がいること。天涯孤独で、犯罪組織に入らなければ立ち回れない少年がどこかにいること。明日の私にできることが何かあるのだろうか。学びたいと思った。


①でシエロの善悪観について考えながらドツボにハマったように、考えれば考えるほど「あ!これも定義づけできてない」「ぐ……これもわからない、差別化できてない」がわんさか出てきて本当に噛みごたえが素晴らしい作品。善とか悪とかもうよくわかんなくなってきたけど、法に触れない範囲で、人になるべく迷惑をかけず持ちつ持たれつで、その範囲で自分の心のままに生きていきたい。シエロは最後の一線(命を奪うこと)だけは例外だけど、善悪とかあんまり考えずに生きてるのかな。フリオは善悪についてよく考えるし、善であることを大切にしてる、でもワイン偽造をあっさり始めるのは「妹の手術代を得るためやむなく」なのかな。そっちの方が大事っていう天秤?なのかも知れない。


足らぬを知ること、そして自分の知らない世界を知ろうとすること。他者という世界に触れるとき、共通の「当たり前」なんてないことを思い出させてくれた作品でした。ありがとうございます。


台詞の端々に「私たち(ファン)」が受け取れるメッセージ性も感じまして。

オークション出品提案の場面での、「これ以上増やさないと決めていても、素敵なボトルと出会うとつい……」のところは(チケット……舞台写真……)と思いながら聞いていました……

ミラの家で話すシーンでの「騙されるのもスパイス」ってところ、騙されるって表記するのは少し憚られるけど、言うたら舞台という魔法に私は望んで騙されに来ているわけで……この魔法の世界に騙されて酔っている間、私は幸せを感じることができて。観劇は私の人生の全てではないけど、紛れもなく今の「私の人生」を素敵に仕上げてくれているスパイスなんだよなあと。


それはそうと主題、「価値という概念」。

いやね、確かに偽物でも美味しけりゃいいよね。「酔えれば一緒」、でもそれは酔うことに重きを置いている人にしか言えない。そのワインの"ブランド"にこだわっているなら、ブランドが偽りだったことに怒るわけで。「偽造の何が悪いんです」というシエロの台詞を初めて聞いた時の鳥肌といったら!「バレない浮気は浮気じゃない 見抜けない嘘は嘘じゃない」嘘も、貫き通せば真実になる……なんて言葉どこかで見かけたな。

価値っていう物差しの目盛は人それぞれ。だから、人の評価に踊らされることがいかに脆くて、儚いか。同じ量の同じ飲み物でも、大金を叩く理由はそれぞれ異なる。スクリーミングイーグルを「うまいな!」で済ませる人も入れば「うまいなんてもんじゃない素晴らしいよ!!」という人もいる。「カミロ・ブランコは御曹司にしてワイン界の貴公子」「このワインはヴィンテージワインで、19×□年に△▲で造られたもの」それが本当でも嘘でも、何を求めているかで受け取り方は変わる。そう、だから、究極的には「俺の価値は俺が決めるもの」に至るんだ。

周りの目が、他人の評価が気になってしまう、そう苦しむ少年少女に、いや全ての人に届いてほしい作品。人と比べたり、人の評価に依存することなく、自分の軸をしっかりと捉えて生きていきたいと思った。さあこの感謝、誰に届けようか。


ところで、

前述①でも少し触れましたが、ホンジュラスへの、ホンジュラス人への私の理解が浅すぎてお話にならない。なんの参考文献も読めずに今日を迎えてしまったことが悔しい、無知が恥ずかしい。もっときちんと勉強してからこの作品と向き合いたい。栗田先生、カルトワインカンパニーの皆様。サクセスストーリーであり、価値という深い概念を味わえる名作であり、ハイテンションミュージカル!!楽しみ方は無限大、テーマを感じ取ろうとすればするほど学びになる、この作品との出会いは、私にたくさんの知識との出会いを与えてくださいました。本当にありがとうございました。この作品について語ること、いつかリベンジさせてください。




___________




④役者、桜木みなと




演劇のことはわかりません!!!素人です。私の中で今作のずんさんを「役者」という肩書きで語りたいと思った経緯をお話しします。


各所でずんさんは「シエロとカミロの演じ分け、」とおっしゃっていたのですが、わたしはカミロにもシエロの軸を感じていて……ずんさんのお芝居は、お役が本当に生きている人間に感じられるなぁとネバセイから思っていたのですが、カルトワインで更に実感しました。


その人の過去が知りたい、今を見届けたい、未来を祈りたい……これって、その人を生きた魅力的な人間と認識できてはじめて成立するゆかしなんです、私の中で。①でさんざっぱら語ったように、あれほど彼、お役について考えてしまう。ずんさんのお芝居は、演じるお役へのこの気持ちを芽生えさせてくださる。生きたお役、その人そのもの。今回のカルトワインは所謂当て書き、だからか、いやそうじゃなくても、劇中で随所に「ずん」さんがチラつく、それでも舞台上に存在するのが「シエロ」である認知に何の問題もない……その巧さにゾクゾクする。


マイ初日、「俺はチャポの……、チャポさんのもとで、それを見つける」のところ、ミゲルとの「です!!!」のやり取りの続きとして受け取る方が多かったのか笑いが起きてて(表情見て「笑うとこじゃないのかな、、?」と思いながら見ていた)、でも観劇を重ねるごとに笑いが起きなくなっていったのが印象的で。覚悟、決意、それを間と台詞回しで滲んでいったのかなぁと。梅芸初日にはもう誰も笑ってなかった。

東京初日付近に見た時は涼しい表情だったところが『ワインの下見会の後、入れ替わり立ち替わり女の子たちと踊る場面』が合間合間に苦しそうな表情になっていったり、紙吹雪の場面が自分の今の儚い成功に狂い笑っていたような顔が泣き出しそうな表情に変わっていたり……他にも私が気づいていなかったり上手く言語化出来ないだけで、どんどん変わっていっていた。お芝居が変わるごとに、シエロは舞台に息づいてるんだと思った。


シエロの時の"実在する男子感"が本当にすごい。腕も首から胸元の作りも男の子だし、何より喋り方!コルミージョの上司への敬語の発し方、ロザリオを首にかけてくれるディエゴへの「は?」と「いいよぉ!」の拒み方、ミゲルとの追いかけっこの言動、フリオとのはしゃぎ方……どれもこれも、『フィクションの中にしか居ないカッコいい男性』じゃなくて、どこにでもいる男子感っていうか、ああずんさんは公立共学のご出身だったな、と観劇中にふと思い出した。出身校は関係なく、ずんさんご自身の研究の賜物なんだろうけど。あの男子感がほんとに好き。

そしてカミロの時は紛れもない色男。人懐っこさも滲ませつつ、男性としての色気を全面に押し出すカミロに毎度クラクラでした。ワインへの知識が、本当に6歳の時から染み付いているような自然な富裕層の振る舞い、言動、立ち居振る舞いが全て違うのが本当にすごいなと。立ち方、歩き方からもうシエロと違う。それでもきちんと中にシエロが居る。そして車のシーンやフリオ、アマンダと話す時に現れる“シエロ”から生まれる少年みたいなギャップ。脱帽。


宝塚歌劇団男役スター・桜木みなと』さんのことがもちろん大好き。だけど、この作品のおけるずんさんを語るのは『役者』しかないとふと思って、この方のお芝居が大好きだと再認識しました。ずんさんのお芝居を観劇できることの奇跡を噛み締めてこれからも見届けていきたい。

「こんなに生きてるって実感できる仕事、他にあるか!」これ、ずんさんにとっての『役者』なんだなって思いながら毎回聞いていました。舞台を、裏方や演出ではなくて、役者として作る道をまず最初に選んでくださって、ありがとうございます。




___________




⑤ただの桜木みなとさんファンの日記




とんでもない人を好きになってしまった。

二幕ラスト、オレンジの囚人服に身を包んだ姿で階段を登っていく背中を見て心臓が跳ねた。


こんなにも美しく愛に溢れた狂乱の世界。その真ん中で心から楽しそうに歌い踊り、仲間と客席を幸せが溢れる笑顔で見渡す大好きなひと。あぁ、出会えてよかった、私は幸せ者。



暗闇の中、セットの隙間を見つめるところからが私のカルトワイン観劇のスタート。上手側後方、白のスーツに身を包んだずんさんがセット裏にスタンバイするそのほんの一瞬だけで、視界が鮮やかに塗り替わっていく。今日も無事に幕が開いた、シエロに会える。安心感と期待と、同じ空間にずんさんがいる事実に胸が高鳴る。


腕も胸元のタトゥーも、ネクタイを緩める指先も、ついつい見つめてしまうこと、どうか許してください。太陽みたいな笑顔も、魅惑の微笑みも、煽るような表情も、キレのあるダンスも、お役としての歌もギンギラの男も、ご挨拶で突如現れるかわいいお人柄も……あなたを大好きになれてよかったです。客席から見つめられたこと、この上ない喜びです。


それはそれとして、プロローグで椅子に座ったまま足を開く振り付けのところ本当に好きです。ありがとうございます。どこかで写真出ますよね、信じてます。


「知れば知るほど首ったけ もっと知りたい君のこと」

あなたのことですよね???ずんさんはワイン。しかもシエロは母性くすぐってくる系。カミロは色気フェスティバル。こっちは大変だよ。

歌い終わりにアマンダの方を見る仕草、初日付近とDCで表情が変わっていてどんな変化があったのか聞きたくてえええええなのに不可能!


グランピーガイズの品評会、ずんさんのステキポイント詰め合わせのすんばらしいナンバーですよね……。いきなりグローブが運ばれてきてキョトンとしてる表情も、いざ踊りが始まるとキメ顔でカッコいいポーズできちゃうとこも、アメージング!のとこもファンタスティック!のとこも、BOO!のとこも表情ちゃんとグランピー(笑)、というかそもそもスーツで右に左に走り回るのめちゃくちゃときめきポイントですよね。ロマネコンティ1945にキッスする舞台写真はいつ出ますか?四つ切り買います。君に夢中だよ、ミスターブランコ!


車内のシーンで急にシエロ出してくるのやめてくださいよあの私がギャップで沈没するので。「ミゲルぅ〜〜!」って絡むカミロほんと可愛いし、私が見た回は毎回面白かった(笑)10年の付き合いですからねぇってミゲルが言ってた回があるらしく、真白さんもそうインプットしてお芝居してるんだと思ったらにやにやしてしまった。東京公演後半からかな?「念入りなトリミングが必要だワン♡」ってわんちゃんの手するようになって……いや可愛すぎるが?どうした?ありがとうございました。


アマンダと再会後にもう一度会う前、女の子たちと次々相手を変えながら踊るところ……「女に溺れるような……」とおっしゃていたけど、DCでは相手が変わるまでの隙間で辛そうな表情浮かべるようになっているのにびっくりした。結局彼は恋愛はしていなかったんだろうか、アマンダのことも、フリオがもうすぐ結婚するって言った時本当に祝福してそうだったな。


ワイン品評会後に歌うところ、「うたぁかたぁあ!!」のあの上げ方?伸ばし方?好きです……。同じく一幕最後の「さぁあぁぁ!!」も、観劇重ねる毎に凄みを増しててビリビリきてました。


ミラさんとのイケナイシーン……私にはまだ早かったな……と思いつつオペラグラスを下げられない矛盾(笑)男役さんとしての色気を手加減無しで放ってくるからもおおおおお無理ですありがとうございました。


カミロとして振る舞い続けてきて、最後の法廷、階段で78秒間(ときめきで不整脈な女が測った不確かな記録)、証言台で45秒(同上)、目を見開き続けるところ。その後の「偽造の何が悪いんです」からの、「美味い美味いと飲んでいたじゃないか!」につながる長い台詞で目が血走っているように演出するため?と、フォロワーさんのツイート(またしてもどなたのものか覚えておらず……ごめんなさい!!ここでお礼させてください)で思い至ってからの衝撃と言ったら。私がもし下級生なら目薬を差し入れしていました。


胸を弾ませたかと思えば締めつけるずんさんの歌声。熱のこもった拍手に包まれて嬉しそうな笑顔に、私の中から溢れるいとしさが涙に変わる。

好きです、大好きです、私の人生に出会って下さってありがとうございます……心の中で呟き続けたフィナーレ。酔いの回った私たちへの気遣い、どなたかのお父様へ感謝する孝行、季節外れな猛暑も強引に思い出に変えてくださった優しさ、ハートのマシンガン、特大ハートのホームラン、四方八方への投げキッス、3階席も忘れないウインク、両手を煽り"ほしがる"ずんさんに拍手を届けられる幸せ、カルトワインでの乾杯!ぜんぶぜんぶ、大切な宝物です。もらったパワーも愛も、全部。この儚い泡沫のような思い出を大事に大事に抱きしめて、私も前を向いて走ります。また舞台に立つあなたに会いに行くために、明日からも頑張ります!


大好きなずんさん。もうきっと前を向いて、誰よりも高く飛ぶために走り出しているずんさん。大切な思い出を、たくさんの愛を、ありがとうございました。




カルト・ワインに、乾杯!